福来る。

ブログ更新がないからと心配して電話をいただき、ハッとしました。
集中していたと言えばそうだし、焦っていると言えばそうだし、
まぁ楽しくてしょうがないと言えば当たりです。

なにしろ、福が来るのです。
もう間近なのです。

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「こてんこてん展〜ここは信州中野だよ(3)〜」を
10月10日から開催予定です!
後日きちんとアナウンスしますので、しばらくお待ちください。

福の字はさすがに骨が折れました。
初っ端でしくじって心がくじけそうになりましたが、
一歩一歩ここでしくじったら水の泡の連続を登りきりどうにかゴール。
達成感です。

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15年前に見た寄木細工の展覧会。
下の作品を観てビックリ、いっくら縁起がいいからって「福」って!
むりむりむり!むりすぎる!寄木先人はんぱね〜。

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挑戦しようという気を、一切おこさせない超絶技巧に、
当時の僕は数字の3をどうにか象嵌して満足したばかりだったので、
その道のりの険しさに唖然としました。

でもまぁ、次の個展は「福助展」にすると決めた時、まぁやらないわけにはいかんだろうと、
避けては通れないだろうと、15年の成長をもって寄木先人に挑む時だと。

専門的には寄木先人の方は寄木細工で「福」を表現していて、
僕の方は象嵌で表現しているので、流派が違うみたいな感じですが、
フォースで通じ合う感じでしょうか?
そうでしょうか?

まぁ、現時点としては我ながらよくやったと思うので、達成感ですね。
されど寄木先人たちのフォースは近づけば近づくほど強大に感じられもします。
ようやく足元ぐらいには及んできたでしょうか、どうでしょうか?

とにかくまぁ楽しくてしょうがないのだろうと聞かれれば当たりです!

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素材に導かれて。

母校の武蔵野美術大学の十時教授からの依頼で、
2年生の課題の見本にする寄木の立体作品を制作しました。
美術大学の見本であることが前提なので、普段作っている作品より抽象的なものと思い、
寄木の作業は単純にしながらも、最大限寄木の面白さを感じられるようにと、
頭をひねり、粘土をひねって考えました。

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十時先生から電話をもらった時は、楽しそ〜!とノリノリで始めたのだけれど、
これが「見本」つまりは「お手本」と思うとだんだん緊張感が増してきて、
しかも大学で買い上げてもらうとのことなので、
前回のブログ同様「注文」を受けて作るということは、
「出来が悪い」とか「実験的な作品でちょっと」というわけには絶対行かないと、
図面に入るまで「これで本当にいいのか?」と、思いのほか悩みました。

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寄木の作品は精度が上がれば上がるほど、
初めて見た人には表面だけ塗り分けただけに見えてしまうようで、
今回は造形の中で内側まで無垢の木の色が連続していることが、
一見してわかるようにしてみました。
さて、思い通りにうまくいくかどうか、数日間の楽しくも、緊張の連続の作業です。

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材料の選定、仕上がりのバランス、イメージを考え、黄色く明るい色のケヤキを選びました。
この色味がこの作品の肝になります。

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徐々に寄木の作業を積み重ねていきます。

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厚みの違う板ではありますが、自動カンナで製材できる平らな板を素直に積み重ねています。

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単純な積み重ねを斜めにカットし、削り出した時に面白い表情が出るように狙います。

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普段は幾つかの作品を並行して作業を進めるので、寄木圧着の乾燥待ちの時間はないのですが、
一つだけを仕上げていくと、どうしても待ちが発生するので、
その間に象嵌用のパーツを制作しました。

今回気が付いたことは、寄木を仕事にする人は、
いくつかの作品を並行して作る方が理にかなっているということでした。
寄木の圧着の待ち時間もそうですが、木取り(材料を選定する)の時も、
いくつかの小さなパーツをまとめて同じ材として取れ、捨て材を最小にできます。
また、バンドソーや昇降版で必要な大きさに近い材にしてからなるべく長い時間、
できれば一週間程度置いておけると、その後の材の狂いを最小にできます。
また、圧着の後すぐに次の圧着をすると、
クランプの圧力で材に歪みや内圧が生まれているので狂いやすく、
圧着後も放置しておく時間があると良いです。
つまるところ、寄木作品はゆっくりと進めれば進めるほど、
精度が上がり、完成後の狂いを最小にできることになります。
なぜ自分の仕事が「精度が高い」と言われるのかと考えてみると、
たくさんの作品を同時に並行して進め、
数ヶ月から1年単位で仕事をしているからだと気がつきました。
普段と違うことをすると、改めて勉強になることがあります。

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さぁ、いよいよ寄木が終わり、荒取りです。

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全体的に大まかに削っていきます。

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カンナ作業に入ってくると、形がはっきりとしてきて楽しい時間です。

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寄木が計画通りにラインを描き始め、削り過ぎないように調整を繰り返します。

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ほぼ削り出せたところで、象嵌の位置を決めます。
普段の作品作りでは、削り出す前の材料が四角い状態で、象嵌の下穴をあけておきますが、
今回は寄木の出方が完全に読めなかったので、削った後に象嵌の位置を決めました。
面白かったのは、ケヤキの木目が楕円状に現れ、
作品のイメージにしていた「宇宙」と繋がるように思え、
象嵌を惑星の流れに見えるように、木目に合わせて変更しました。

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象嵌をして磨きあげると、ぐっと締まりが出ます。

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完成写真です。
『朝ぼらけ』という題名にしました。
こちら側が太陽のイメージ。

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反対側が月のイメージです。
黄色味の強いケヤキの色が作品意図にはまりました。
単純な寄木でも、傾きのつけ方や、造形の工夫で、寄木の面白い表情が出せたように思います。
ただ単に抽象的なイメージではなく、誰もが想像しやすい表現にもできたかなと。

「朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪」

百人一首ですね。
月と太陽でなにか物語を感じる題名と思い考えていたら、
長女が「有明の月は!?」というので、調べてみると、百人一首に歌がいくつかあるようで、 
月と朝日が同居する時間「朝ぼらけ」というイメージが作品としっくりきたので決めました。

さて、ここまでだと美大の課題の見本制作とはいえ「中川らしくない」とか
「大人になってしまったな」と、
誰かにというか、まぁ自分自身に言われちゃいそうです。

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作品中央をバンドソーで切り抜いた余りが綺麗だったので、何かにできないかなと。

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まぁ、こうなりますよね、僕なんで。
周辺部の余りの部分を体にしてみます。
図面を引かないで作ることは普段ないのだけれど、すでに出来上がっている寄木に合わせて、
顔や体のラインを決めていくのも楽しい作業でした。

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なんとなくいけそうな気がします。
見本制作の余りの象嵌パーツを利用して、目や文様を入れていきます。

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おお!これですこれです。
やっぱりこれで、中川岳二の作品になりました。
『朝ぼらけ と 朝ぼう』ということになりますね。
『朝ぼう』は「朝ぼらけ〜」の歌を詠んだ坂上是則ということでもいいかもしれません。

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切り出された元の位置にピタッとおさまります。
そりゃそうだね。

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思わぬよい作品になったように思うので、
美術館で予定している展覧会の時には大学から借りようかと思っています。
前回のブログにも書きましたが「注文は受けぬ」でやってきた僕ですが、
「注文」から自分だけでは考えつかなかった面白さが生まれるな〜と実感しました。
また、普段より作りながら考える所が多かったので、
偶然を味方につけ、木の特徴に合わせて、素材に導かれる作品制作になりました。
依頼してくれた十時教授に感謝するとともに、
この作品を見て生徒たちが学ぶところがあることを願っています。

さてさて、今回の見本制作は、2年生の課題のためでした。
武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科は1年時から2年時前期まで、
木工、金工、陶磁、ガラス、テキスタイル、
インダストリアルデザイン、インテリアデザインを一通り勉強して素材を知り、
2年時後期から勉強を深める専攻を決定していきます。

この課題は専攻選択前の課題であり、
将来どんな素材を専門とする作家になるのかデザイナーになるのか迷っている生徒たちの
最後の判断材料になります。
寄木の削り出し作業は、木の色や木目といった木の魅力を知り、
繊維の方向や硬さや柔らかさなどの性質を体感するよい機会になるはずです。
寄木に用いる色の綺麗な木はどれも硬いので、苦労は多いかもしれませんが、
形が見え始め、寄木が綺麗なラインを描き始めるとワクワクしてくると思います。
そのワクワクを少しでも感じた生徒たちにはぜひ木工を選んでほしいです。

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寄木の圧着に入る前、スライドで作業工程を説明しました。

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助手さんが用意してくれた厚み10mmの板を好きな組み合わせで寄木します。

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4枚ずつ寄木して、この工程を数回繰り返します。

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数日して工房に訪れると、おおっ!
遠目にも存在感があり形と寄木の調和が美しいです。

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ぽってりとした形で不思議な魅力があります。

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上手な作品、センスがあり作ることへの執着を感じさせます。
寄木の効果も上手くでています。

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これもハイレベル、わかりやすい見せ所を作らず、緩やかなラインで繋いでいます。
こういう形で美しさを感じさせるのは難しいので、センスあるな〜と感心、
寄木のラインの出方も綺麗です。

硬い木を削ることに苦労し、思うようにいかなかった生徒もいたかもしれませんが、
木のことや道具のことをもう少し学べば、硬い木を豆腐のように感じられるようになり、
素材を知り素材と向き合えば、自分の技量以上に素材が作品を作ってくれるようになります。
素材に導かれて、進路を決めるのもいいかもしれません。
もし木工を選んでくれて、僕が関わる授業があれば、
木と手が繋がり合い作品を高められるように精一杯応援します。

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福助の建もの探訪。

おはようございます、お久しぶりの福助です。
今日の「福助の建もの探訪」は、木のぬくもりと音楽が響き合う家ということで、
いったいどんな家なのか楽しみです。
と〜きどき♫ 近くを〜、見つめる〜♪ 幸福そうな、あなたのよ〜こ顏♩
って、冗談やがな、
今日はワシの友達というか元同僚が引っ越したいうんで、お祝いに来たわけや!

よっ、久しぶりやなぁ『ぴちゃ丸』!元気やったか。
めっちゃええ家やん、それにお前の部屋なんなん、最高やん、家の中でも最高の一等地やん。
銀座なら和光の立地やで。
おまえめっちゃええ家に連れて行ってもらってたんやな。
ええなぁ、ほんま!

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「福助、今日は遠くからありがとねー!
いい家でしょ、僕のご主人は僕の部屋まで考えてくれたんだよ〜、うれしいね〜」

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じゃ、ちょっと失礼して、リビングを拝見させていただきますっと!
って、おい、『ゴノ(15号)』やな〜いか〜い。
ええやん、おまえめっちゃええやん、ワシしびれたわ、ビリビリって、めちゃしびれてしもたわ!
なんなん、この家なんなん、おまえらのご主人めっちゃええやん。
まるであれやで、これはすでに中川の私設美術館やで、これきたで、
ワシ的にはもうすでに人気スポットやがな。

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「福助〜、はしゃぎすぎ、テンション上げすぎ。
そしてその横で涙流しながらシャッター切ってる中川氏、あなたも胸が熱くなりすぎだよ。
室温が5度くらい上がったんじゃないかな。
まぁ落ち着いて、玄関の表札見てきた?おもしろいよ〜」

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これはもしや!?、寄木の表札、
いや、まさか?!、注文制作は絶対に受けないでお馴染みの中川が作るはずは・・・。
いや、ワシにはわかるで、この配色のセンス、
インターホンまできっちり納めてくる、この感じ、間違いないで中川のしごとや。
そうやろっ!中川、おまえの仕事やでこれは!

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「あら福助、よく分かったね。こうやって玄関にちゃんと収まってるのを見ると、
やったかいがあったなぁ。
工房で完成した時以上にかっこよく見える!ホッとしたよ〜。」

ちょっ待った!中川、たしかにええできや思う、それは認める。
しかしや、しかしやで、あれだけ注文は受けないと、注文制作は断り続けてきたあんたが、
なんで寄木の表札作るねん、なんでやねん?

「う〜ん、話すと長くなるんだけどね、小林さんは何度も個展に足を運んでくれている方で、
ワークショップにも家族で参加してくれたりと、ゆっくり話す機会もあったわけ。
コレクションしていただいている僕の作品を飾る場所も考えながら新居を計画中だとのことで、
是非お願いしたいことがあると切り出されてね、とても丁寧に頼んでくださったわけ。
人の礼に対して礼をもって返したいじゃない。
自分は注文は受けないと決めているわけだけだから、
う〜んと考え、プレゼントならどうだろうと思いついたわけ。
とはいえ、プレゼントですって渡しても、小林さんの方が困っちゃうだろうから、
小林さんとプレゼント交換するのがいいんじゃないかと思いついたわけね。
僕は木工のプロとして表札をプレゼントするので、
小林さんもご自身のプロを生かしたプレゼントと交換しましょうと提案したの。」

ほう、そういうことかいな。
お金を中継しない経済をやってみたわけやな。
ええやないか、ワシそういうの嫌いやないで、ええんちゃうん。

「まぁ、やってみると、頼まれて作るってのもいいもんだなぁと思ったよ。
その人の印象を踏まえながら、
喜んでくれる顔を具体的に思い描いて作るってのも、わるくないと思えた。
もともとなんで注文は受けないとして来たかというと、
売れることが決まっているものを作ることって真剣勝負じゃないと思っていたからでね、
売れるかどうかもわからないけど、自分がいいと思うものだけを作って、
そのいいと思うものに共感してくれる人が現れるはずだと信じて、
できのいいものは売れるだろうし、できのわるいものは売れ残るわけで、
それが真剣勝負でものを作ることだと考えていたわけ。
まぁ、偏屈なんだろうけど、
自分が作りたいものだけをリスクをとってもやりたいというのが強かった。
でもまぁ、何事も経験だね、その人に合わせたもの作りってのもいいもんだなぁと。」

ええやろ、人間や生きてりゃ考えが変わることもあるわな。
中川にええ経験させてくれた小林さんには、ワシからもめっちゃ感謝や!
それにしてもあれやろ、これって小林さんがプレゼント考えるのが激ムズやったんちゃうかな。

「福助には教えませんけど、めっちゃええプレゼントだったよ、楽しかったし!」

ということで、小林邸の完成見学会に行ってきました。
床や天井に無垢の木がふんだんに使われ、
自然光が入り、風が吹き抜ける、街場ではありながら自然を感じることのできる家でした。
何と言っても僕の作品を飾る場所も考えながら設計された家というのを
初めてみるので感激でした。
表札がきっちり収まらなかったら、現場を見て直せるしと思っていましたが、
建築士や施工業屋の方の工夫で綺麗に収まり、
小林邸の完成に僕も少しお手伝いできたことをうれしく思いました。

帰りの車の中で思い出していると、僕が思い描いていた美術や工芸の在り方が、
また一つ現実になっているところを直に見ることができたなぁと感慨深く思いました。
工芸作品や美術作品も、最初から美術館に飾ることを目標にし始めると、
おかしなことになって行くんじゃないだろうかという思いがあります。
美術館なしにマルセル・デュシャンのような作品が成立しないのは、
美術作品よりも美術館という装置に「有り難み」が移ってしまったことの証左であり、
デュシャンの作品自体がそのことへの皮肉です。

美術館での展示の依頼ももらえるようになってきた時だからこそ、
自分の作品のほんとうの居場所を確認できたことは、とても貴重な経験になりました。

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