福助の建もの探訪。
おはようございます、お久しぶりの福助です。
今日の「福助の建もの探訪」は、木のぬくもりと音楽が響き合う家ということで、
いったいどんな家なのか楽しみです。
と〜きどき♫ 近くを〜、見つめる〜♪ 幸福そうな、あなたのよ〜こ顏♩
って、冗談やがな、
今日はワシの友達というか元同僚が引っ越したいうんで、お祝いに来たわけや!
よっ、久しぶりやなぁ『ぴちゃ丸』!元気やったか。
めっちゃええ家やん、それにお前の部屋なんなん、最高やん、家の中でも最高の一等地やん。
銀座なら和光の立地やで。
おまえめっちゃええ家に連れて行ってもらってたんやな。
ええなぁ、ほんま!
「福助、今日は遠くからありがとねー!
いい家でしょ、僕のご主人は僕の部屋まで考えてくれたんだよ〜、うれしいね〜」
じゃ、ちょっと失礼して、リビングを拝見させていただきますっと!
って、おい、『ゴノ(15号)』やな〜いか〜い。
ええやん、おまえめっちゃええやん、ワシしびれたわ、ビリビリって、めちゃしびれてしもたわ!
なんなん、この家なんなん、おまえらのご主人めっちゃええやん。
まるであれやで、これはすでに中川の私設美術館やで、これきたで、
ワシ的にはもうすでに人気スポットやがな。
「福助〜、はしゃぎすぎ、テンション上げすぎ。
そしてその横で涙流しながらシャッター切ってる中川氏、あなたも胸が熱くなりすぎだよ。
室温が5度くらい上がったんじゃないかな。
まぁ落ち着いて、玄関の表札見てきた?おもしろいよ〜」
これはもしや!?、寄木の表札、
いや、まさか?!、注文制作は絶対に受けないでお馴染みの中川が作るはずは・・・。
いや、ワシにはわかるで、この配色のセンス、
インターホンまできっちり納めてくる、この感じ、間違いないで中川のしごとや。
そうやろっ!中川、おまえの仕事やでこれは!
「あら福助、よく分かったね。こうやって玄関にちゃんと収まってるのを見ると、
やったかいがあったなぁ。
工房で完成した時以上にかっこよく見える!ホッとしたよ〜。」
ちょっ待った!中川、たしかにええできや思う、それは認める。
しかしや、しかしやで、あれだけ注文は受けないと、注文制作は断り続けてきたあんたが、
なんで寄木の表札作るねん、なんでやねん?
「う〜ん、話すと長くなるんだけどね、小林さんは何度も個展に足を運んでくれている方で、
ワークショップにも家族で参加してくれたりと、ゆっくり話す機会もあったわけ。
コレクションしていただいている僕の作品を飾る場所も考えながら新居を計画中だとのことで、
是非お願いしたいことがあると切り出されてね、とても丁寧に頼んでくださったわけ。
人の礼に対して礼をもって返したいじゃない。
自分は注文は受けないと決めているわけだけだから、
う〜んと考え、プレゼントならどうだろうと思いついたわけ。
とはいえ、プレゼントですって渡しても、小林さんの方が困っちゃうだろうから、
小林さんとプレゼント交換するのがいいんじゃないかと思いついたわけね。
僕は木工のプロとして表札をプレゼントするので、
小林さんもご自身のプロを生かしたプレゼントと交換しましょうと提案したの。」
ほう、そういうことかいな。
お金を中継しない経済をやってみたわけやな。
ええやないか、ワシそういうの嫌いやないで、ええんちゃうん。
「まぁ、やってみると、頼まれて作るってのもいいもんだなぁと思ったよ。
その人の印象を踏まえながら、
喜んでくれる顔を具体的に思い描いて作るってのも、わるくないと思えた。
もともとなんで注文は受けないとして来たかというと、
売れることが決まっているものを作ることって真剣勝負じゃないと思っていたからでね、
売れるかどうかもわからないけど、自分がいいと思うものだけを作って、
そのいいと思うものに共感してくれる人が現れるはずだと信じて、
できのいいものは売れるだろうし、できのわるいものは売れ残るわけで、
それが真剣勝負でものを作ることだと考えていたわけ。
まぁ、偏屈なんだろうけど、
自分が作りたいものだけをリスクをとってもやりたいというのが強かった。
でもまぁ、何事も経験だね、その人に合わせたもの作りってのもいいもんだなぁと。」
ええやろ、人間や生きてりゃ考えが変わることもあるわな。
中川にええ経験させてくれた小林さんには、ワシからもめっちゃ感謝や!
それにしてもあれやろ、これって小林さんがプレゼント考えるのが激ムズやったんちゃうかな。
「福助には教えませんけど、めっちゃええプレゼントだったよ、楽しかったし!」
ということで、小林邸の完成見学会に行ってきました。
床や天井に無垢の木がふんだんに使われ、
自然光が入り、風が吹き抜ける、街場ではありながら自然を感じることのできる家でした。
何と言っても僕の作品を飾る場所も考えながら設計された家というのを
初めてみるので感激でした。
表札がきっちり収まらなかったら、現場を見て直せるしと思っていましたが、
建築士や施工業屋の方の工夫で綺麗に収まり、
小林邸の完成に僕も少しお手伝いできたことをうれしく思いました。
帰りの車の中で思い出していると、僕が思い描いていた美術や工芸の在り方が、
また一つ現実になっているところを直に見ることができたなぁと感慨深く思いました。
工芸作品や美術作品も、最初から美術館に飾ることを目標にし始めると、
おかしなことになって行くんじゃないだろうかという思いがあります。
美術館なしにマルセル・デュシャンのような作品が成立しないのは、
美術作品よりも美術館という装置に「有り難み」が移ってしまったことの証左であり、
デュシャンの作品自体がそのことへの皮肉です。
美術館での展示の依頼ももらえるようになってきた時だからこそ、
自分の作品のほんとうの居場所を確認できたことは、とても貴重な経験になりました。