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三十八歳、七変化?

38歳になりました。
いろいろ言い訳できない歳になったなぁ、というのが感想です。
よくわからんけど。

来年の展覧会に向けて、ぜっさん寄木中の日々です。
40歳台を目の前にして、これまでを総括するような展示にしたいと思っています。
総括とはいえ、まだまだ作家前半戦、新作では大きく変化をつけたいなぁと考えています。

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写真は今回の作品に使う木の色を確かめているところ。
色が濃くなっているところは水をつけて、仕上がりに近い濡れ色を確認しています。
今までは下から4色のチーク、ホワイトアッシュ、ケヤキ、ウォールナット。
そこから上の、パドック、チェリー、メープルを今回初めて大きな作品に使うことにしました。
最初はチェリーを中間色で加えようと考え、新作で雪や雲を表現したいので、
白色に変化をつけたくて、ホワイトアッシュに加えてメープルを使うことに。
挿し色で赤色が欲しくてパドックを購入して製材してみると、
パドックにしては落ち着いた赤色で、最初はちょっとがっかりしたのですが、
眺めているとなんともいい色をしているなぁ思い、
挿し色ではなく、1色として使おうと気持ちが変化。
というわけで、何か変化させたいなぁと思ったところが、4色が7色になりました。

チーク、ホワイトアッシュ、ケヤキ、ウォールナットには
強いこだわりを持ってやってきたのだけれど、
自宅の家具をチェリーで作ってから、チェリーの魅力を体感して、
昨年の福助ではチークをチェリーに置き換えました。
チークもチェリーも中間色としては甲乙つけがたいですね。
メープルはもともと好きな木でしたが、
ホワイトアッシュのはっきりした木目が作品のアクセントになるので、
白はホワイトアッシュと決めていました。
今回の新作には同じ白の中で敢えて小さな変化をつけるのが合いそうと思い、
メープルも加えました。
パドックは本来もっとドギツい赤なので、作品に大きく使うことはないと思っていたのですが、
一種類の木を一つの色と考えていたことが木工作家としてダメですね。
ウォールナットに色の濃いのや薄いのがあるように、
ケヤキに黄色いのや赤みが強いのがあるように、
パッドクも木によって様々な色味があるに決まっていました。
予想外の落ち着いた赤みのパドックがやってきたのはラッキーでした。
7色並べて眺めていると、どんなふうに調和するのか、新作の出来上がりが楽しみです。
30代の終わりに寄木の色が大きな変化、40代はこの7色と仲良くやってくぞ。

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工房見学。

先日、武蔵野美術大学の学生が4人で見学に来ました。

作品が世間に知られるようになってから、毎年誰かしら工房に見学に来るようになりました。
京都の学生や秋田の学生、山口の学生、武蔵美の卒業生や、長野の技術専門校の生徒などなど、
作家になりたいと思っている子や、独立して工房を持とうと動いている人など、
けっこう沢山の若者と作家について話してきました。
僕としては驚いているのがその半分ぐらいの人がその後作家になっていることです。
すごく活躍している人、他の仕事もしながらの人、と状況はいろいろだけれど、
個展の案内状なんかが送られてくると、頑張っているんだな〜と、感心しています。

僕自身、学生の時には作家さんの工房を見学させてもらったり、
卒業後には機械屋さんを紹介してもらったりと、何人かの作家さんに世話になりました。
なので死ぬほど忙しい時以外はなるべく見学を受け入れています。
作家になってみたいと思っている人には、具体的な話ができ、
役立つことがあるかもしれませんので、連絡をくれればと思います。

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武蔵美の4人のうち2人は就職が決まったとかで、
しかも木工関連では結構大きな会社なので、よかったね〜!です。
もう2人は作家もいいかなぁと迷っているとかで、僕としては作家を進めちゃいますが、
今年も昨年に続き就職は売り手市場だというし、
行ける時は行っとくかというのもあるかな〜、迷うとこだなぁ。

写真はうちの三女がおねいさん達に工房を解説しているところです。
武蔵美では講義でも作家になる話はしているので、
見学の半分くらいは娘と遊んでもらった感じでした。
娘は最近遊びに行った「ちびっこ忍者村知ってる?こんど一緒に行く?」と
しきりに誘っていました。
おねいさん達が帰ると「わたしも大きくなったら指に色がつく?」
というので何のことかと思うと?
おねいさん達のマニキュアを見てたんですね、僕はどの子がしてたのかも記憶にないので、
よく見てるもんだなぁ、三女も女の子だなぁと感心しました。

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福助、ロボになる。

どうも、お久しぶりの福助やで。
中川があんまりブログ書かんもんやから、わしがまた登場や、お待ちどさん。

おい、中川!、囲碁AI「AlphaGo」がイ・セドル九段に見事勝利したな〜。
わししびれたわ、こら新時代の幕開けやで、
あらゆるところで人工知能やロボが人類を凌駕するかもしれんで。
そういう時代なんや、わしも広義な意味においてはロボなわけやん、
ゆらゆらとお辞儀を繰り返すわけやし。
しかしや、「起き上がり子法師」方式ではいずれ限界がくるで、
時代の波に押し流されてしまう思うねん。

わし、進化したいねん、本気のロボになりたいねん!

ず〜と、ず〜と、お辞儀を繰り返す福助ロボに、作り替えてくれや、作り替えてくれ!
わしは時代に負けたないねん!

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とまぁ、福助が騒いでいますが、ちょっと難しいですよね、福助は木の置物なわけですから。
でも、展覧会などで展示している福助が突如動き出したら、
楽しいだろうな〜とは前々から考えていて、
誰かに装置の制作をお願いできないかななんて思っていたりしました。

福助、ロボになる、という今回の話は一本の電話から、始まりました。
プルルルル、プルルルル、「はい、中川です。」
「あ、中川さん。竹風堂の竹村です。」
「あ〜ぁ、お久しぶりです。個展の時はありがとうございました。」
「あの寄木の福助さんですがね、押してやるとお辞儀をしますね、
あれをずっとお辞儀を繰り返すようにできませんかね?」
「なるほど・・・。」
「何か背中から押してやるカラクリを作れませんか?」
「う〜〜んと、背中からだとカラクリが見えてしまうので、
下から押し上げるような感じが、パッと浮かびました。」
「そうですね、台のようなものがよいかもしれませんね。」
「わかりました。考えてみますので、しばらく時間をください。」

とまぁ、引き受けたのはいいのですが、本当にそんなことが可能でしょうか?
まず一人では無理かもと思い、大学の後輩のカラクリが得意な藤本くんに連絡。
略図を書いてメールすると、モーターのことなど親切に教えてくれました。
でも藤本くんの教えてくれたモーターでは力が弱く、福助が持ち上がりそうにありません。
これは一から勉強するしかないと覚悟を決めます。

疑問や知らないことがある時、助けてくれる凄い場所があるんですけど、みなさんご存知ですか?
え、ご存知ない。
図書館ですよ。
図書館て、やっぱ凄いですね〜、人類の英知の集積です。
「動力」「歯車」「モーター」どんなワードにも、ずらり専門書が用意されています。
しかも「歯車」だけで何冊も。
歯車なんて作ったことなかったんですけど、仕組みがわかるとはまりますね、面白いです。

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特大福助の揺れている時間が1分から最長で1分半です。
ですから、福助を押し上げる装置が1分半ぐらいのインターバルで、上下すればよいわけです。

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ただ、福助を押し上げる棒は、福助を押し上げた後、すぐに下がらないと、
揺れ戻ってくる福助にぶつかってしまいます。
さて、どんな装置が考えられるでしょうか?

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市販のモーターで最も遅い速度のもので、一分間に4回転するものがあるとわかりましたので、
歯車を組み合わせて、さらに5ぶんの1から6ぶんの1くらいに減速してやります。
市販のモーターもギアヘッドと呼ばれる場所を開けてみると、
何個も歯車が組み合わされて、減速されていることがわかります。

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図面通り作れていれば、ちゃんと動くはずですが・・・。
歯車がウォールナット、ホワイトアッシュの寄木になっています。
これは意匠としての意味合いよりも、
木の繊維方向を交差させて張り合わせることで、歯車の歯が折れないようにするためです。

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塗装して、台の下に収めます。

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電源は12Vのアダプターにしました。
スイッチはないので、抜き差しして、オン・オフ、です。

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タァ〜、緊張するわ〜!再びの福助やで。
わしついにロボになるんやなぁ、しかし転げ落ちんやろか、緊張や。

カタ〜〜〜ン!って、鹿おどしか〜〜〜い!
なんか確かにロボなんやけど、ロボなんやけど、なんかレトロやねん。
アダプターが付いてなかったら、「江戸時代後期の作だと思われます」って、
虫眼鏡持ったヒゲのおっちゃんに言われたら「そんなものかなぁ」って納得してしまいそうや。
時代は囲碁AI「AlphaGo」やで、なんか時代の波に押し流されて、
沖ははるか、無人島まで押し流された感あるで。
やめぇ、わしが巨人なんやない、お前らが小人なんや!って、誰がガリバー旅行記やねん。

福助はそう言っていますが、動くものを作ったのが初めてだったので、
作者はけっこう感動しました。

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さて、やってきました隣町の小布施にあります「竹風堂本店」。
作者が満足しているからって、会長が満足してくれるかはわかりません。
台の上の福助なみに緊張します。

奥にある本社で会長やスタッフさんにお披露目、
カタ〜〜〜ン!と威勢よく、お辞儀を決める福助。
一同、笑い。
さすが福助、決める時は決めるやつです、完璧です。

メンテナンスの必要性や、何日も動かした時の耐久性など、今後のことを話しながら、
少し気になっていたモーターの「ジーーーーーィ」という音について、
店頭に置いた場合気になるかもしれませんと話ていたら、
「大丈夫、ショウケースの中に飾るから」とのこと。

ショウケースってどこだろう?と思っていたら、まさかのここでした!

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どこって?、ここです。
まさかの店頭も店頭、まさに店頭です。

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おい、中川・・・。めっちゃ緊張やで、さすがに緊張やで。
背中に民芸の芹沢銈介の「風」に「福」の字や、
会長さん、わしのためにめっちゃ舞台整えてくれてるやん。
こりゃもう、竹風堂に、ど〜〜〜んと福の風を起こさにゃあかんで。
わしのお辞儀とこのおでこで、福の風を舞い上げるで!

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確かに、作者としても緊張します。
ここ長野県小布施町は、北斎、栗菓子、酒蔵などなど、
近年ますます人気の観光スポットになっています。
週末この竹風堂の前の道などは観光客で驚くほど賑わっています。
一人でも多くの人が足を止め、ちょっとでも笑顔になってくれればと、
福助には休まずお辞儀を続けるよう、強く言って聞かせます。

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店長さんと一緒に、セッティング。
電源までの延長コードがないので、後ほど用意するということとなり、
何かあったらすぐ電話をくださいということで、とりあえずの納品完了にホッとしました。

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と、このブログを途中まで書いていた、納品の次の日の朝・・・。
(その時は囲碁AI「AlphaGo」が人類に勝った日で上のネタがタイムリーだったですが。)
プルルルル、プルルルル、「竹風堂の竹村です。どうも福助さんが転んでしまうようで。」

まさかの、福助、店頭で転倒です。

工房ではモーターと歯車の連続運転テストは12時間以上試したのですが、
福助のお辞儀は2時間動かして大丈夫だろうと判断していました。
甘かったと反省し、すぐ小布施へ。

会長と話し合い、あれこれ考えた結果、
安全性を考えて、台に溝を掘る方向で行こうということに。
テストをした福助は工房にあるものを使ったのもよくなかったと思い、
福助ごと家に持ち帰ります。

福助を3体用意してテストを繰り返すと、それぞれに違う癖があることがわかりました。
ほとんど動かない福助もあれば、右方向にまわっていく福助、後ろに下がってくる福助。

竹風堂の福助は右に回りつつ、後ろに僅かづつ下がってしまいます。
回るのは止められるのですが、下がるのについては調整が難しい。
台を少しづつ前方に傾けていくと、
前に滑るのと後ろに下がる力の釣りあう角度を発見できました。
しかし台が完成しているので、
ただ台を傾けるのでは芸がありませんし、見た目にも難があります。

う〜〜〜ん、あっそうか!溝を斜めに掘ればいいんじゃない!
シナプスとシナプスがつながって頭の中で電球が輝く!
古いひらめきイメージの僕の脳みそですが、
まだまだAIには負けていられません。

思いついてしまえば簡単です。
型を作って、ルーターで削っていきます。

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ピタッと欲しい角度が出ました。
夜中の12時間テストを、塗装前、塗装後の2回クリアして、改めて納品です。

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店頭で1時間ちゃんと動くのを確認させてもらって、
福助の位置をチェックするため目印のシールを貼ったので、
一週間後順調にお辞儀をしていたか確認して、
シールを剥がして晴れて納品とさせてもらうこととしました。
動く作品がはじめてで、問題を出してしまいましたが、
竹風堂が工房の近くのお店であったことは幸運でした。
台を納品した日も、調整して持って行った日も、
僕の出した答えに、竹村会長が目を細めて喜んでくれたことが嬉しかったです。
この楽しさが見てくれた人にも伝わったらいいなと思います。

ちなみに、僕の作品に詳しい人は気になると思うのが直射日光による日焼けです。
竹風堂のこの場所は、北向きな上、西日も当たらないという、願っても無いよい場所です。
小布施に観光の際には、ぜひとも福助がサボっていないか、会いに行ってやってください。
(季節ごとにこの場所の飾りつけは変わってしまうそうで、
本店のどこかにはいるかもしれませんので探してみてください。)

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