子供とおもちゃと障害と
突然ですが、母親が養護学校で教師をしているので、
ぼくにとって知的障害児や情緒障害児は小さい頃から触れ合う機会の多い身近な存在でした。
学生の頃から障害児の教育に興味を持ち始め、
子供用のおもちゃ「=遊び」を考えるのと同じように、
子供がどうやって「学ぶ」のかについても考える様になりました。
「子供」と「ぼくのおもちゃ」と「障害者(児)」がぼくの頭の中でどのように繋がって
テイクジー・ズーが生まれたのか、文章にまとめてみましたので、
興味のある方はどうぞ・・・長いですけれども。
『子供とおもちゃと障害と』
生まれたばかりの子供は自分(内)と外すらあいまいな「ひとつ」の世界に住んでいます。
まだ自然の一部である赤ちゃんはある意味ではとても幸せな存在です。
ただ、この世界に人間として生まれ社会の中で生活をする以上、
我々と同じ言語を習得し概念を形成する必要があります。
自分(内)と外、母や父などを認識しはじめると「ひとつ」だった世界は
2つ、3つと広がって行きます。
徐々に複雑な世界を認識し、DNAやニュートリノなど目に見えない世界や
増え続ける新しい言葉まで知ることになります。
言語を習得し概念を形成するというのは、
例えば、ネコと言う言葉を見たり聞いたりした時に
ある特定の「ねこ」(実物やイメージ)を思いうかべることが出来ることです。
では、私たちはどのようにして言語を習得し概念を形成してきたのでしょうか?
つまり赤ちゃんはどのようにして視覚からの情報と聴覚からの情報を結びつけて
脳に言語を発生させるのでしょう。
知的障害児の教育を行う養護学校の授業で
多く取り入れられているものに「マッチング」があります。
ゆっくりと成長する知的障害児が言葉や数などの概念を理解するのに用いられるのが、
絵、数字、色などのカードを分類したり
「かたはめ」(穴に同じ形の物をはめる)によるマッチングです。
最も基本的なものとして数個ずつの丸、三角、四角を同じ形にわけるものがあります。
なぜ丸を丸と認識できるようになるのか、丸と三角は違うと分かるのか・・・。
(分かっている人からすると、分からないことを理解する方が困難ですが)
違いが分かるためには、まず同じ形とはなにかを知る必要があります。
マッチングをして2つ以上の丸が同じ形であることを理解できるようになると、
視覚からの情報である「◯」と聴覚からの情報である「まる」を結びつけて
脳に「丸」という言語が発生します。
丸の概念が形成されると三角との違いが分かるようになり、四角も分かるようになります。
何が同じであるかを知ることが何が違うかを知ることの第一歩なのです。
基本的な形の違いが分かるようになると、家や車などだんだんと複雑になる世界を
分類し系統立てることができるようになります。
脳の中にインデックスがつくられ、言語が整理されはじめると学ぶ準備ができたことになります。
現在までに創りだされてきた言語を分類したインデックスの体系が学問ですから、
何が同じで何が違うかを知る(分類し系統立てる)「マッチング」は全ての学問の基本であり、
学問そのものだと言えます。
玩具の中にも「かたはめ」やメモリーカードなどのマッチングをして遊ぶものが多数あります。
テイクジー・ズーは視覚障害児にも同じように遊べるおもちゃとして考えました。
形を指でなぞることで知覚することができ、同じ形を探し
磁石でくっ付けることでその行為を補足します。
2枚の同じ動物をくっ付けると立てることができるので、
動物の全体と部分の理解と上下(空間)の把握を促します。
視覚障害児にとって手先による触覚的な観察が情報収集の重要な手段となりますので、
点字などの学習を行うためにも手指の操作能力や
働きを向上させ触覚を鋭敏にすることが大切です。
能動的に獲得できる触覚的知覚をハプティク知覚といいますが、
上記のような能力を向上させることは視覚障害者だけでなく
視覚情報に頼りがちな晴眼者(健常者)にとっても大切なことだといえます。
楽しく遊ぶ中でテイクジー・ズーが子供の成長の手助けになればと思います。
参考文献 『視覚障害教育に携わる方のために』 香川邦生編著 慶応義塾大学出版会
『視覚障害児のための言語の理解と表現の指導』 文部省 同上