夢を叶える。

2007年のことです。
松屋銀座から依頼を受けて、初めてのデパートでの個展、
自分の実力で場に見合う展示ができるか緊張し、プレッシャーに負けそうでした。
作家としては大きなステップを踏むことができるチャンス、
自分にしかできない個展にしたい、
作品を鑑賞するのではなく、思わず手にとってにっこりしてしまうような作品。
子供が遊べるスペースを設け笑い声が響いて、老若男女が笑顔になれる、
それが僕の理想の展示です。
作品準備に追われながら、遊びスペースのテントを作ったり、
人工芝をホームセンターに買いに行ったり、
お金も力もないのに、自分の理想に近づけるために夢中でした。
あれは夢の途中だったのだと、今振り返れば思います。

2017年は、あれからちょうど10年です。
美術館のロビーに人工芝を引いて、10年前に作ったテントを立てて、
自分のデザインした木のおもちゃと家具を並べます。
遊びスペースだけでも松屋銀座の個展会場より広いくらいです。
17年間の作家活動と大学3年からの2年間、計19年間すべての作品が集い、
飯山市美術館の展覧会場を埋め尽くしました。
僕の理想の準備は整いました。
あとは観てくれる人の笑顔です。

9月16日から11月12日まで、50日間、予想をはるかに超える人たちが訪れてくれました。
子供達の笑い声が響き、ご年配の夫婦が連れ添って微笑み、
2世代3世代の家族が一緒にニコニコと談笑し、
美術館の中にたくさんの笑顔が生まれました。
僕が会場を訪れた時だけでも多くの笑顔に出会うことができました。

なんて美しいのだろうと思います。
それを自分の作品が生み出しているのかと思うと、信じて進んできたことが報われます。
僕の理想の美術館が完成しました。

作家は作品を生みますが、作品は鑑賞者がいて初めて成立します。
考えさせられる作品であるとか、テーマが深いなど、理解しづらい作品が並ぶ中、
作者の深遠なる表現を受け止めようと腕組みしながら声を殺して密やかに眺めることを、
美術館賞と思いがちですが、理解しようとしている時点で感動していないということです。
思わず涙がこぼれる、思わずニッコリしてしまう、思わず苦しくなってくる。
どんな反応であれ理解する前に、心が動いてしまうこと、これが感動をするということです。

チャップリンは中でも人を笑わすことが一番難しいと言いました。
涙を流すのはある程度仕掛けをすればできてしまうけれど、笑いを仕掛けるのは難しいと。
じゃあ、それをやってみようかなと思ったのが大学3年生の時、
課題の図面を引きながら聞いていたラジオ番組「爆笑問題カーボーイ」で
太田光さんがチャップリンについて熱く語っている時でした。

僕は17年間の作家活動の中で幸運なことに多くのファンと出会うことができました。
制作につまづいたり、大きな依頼が頓挫したり、
苦しい時には、ファンの人たちの手紙やメール、個展の時にいってくれた言葉で、
食いしばっていた歯がほころんで、笑顔になれました。

笑いは時には人の失敗から生まれることもありますが、
笑顔は優しさからしか生まれません。

11月4日からの自宅ギャラリーでの個展のさい、
初日で完売となり、作品写真を印刷したプレートを展示していたところ、
比較的近くに住んでいるファンのMさんが会場を訪れ、
「私の持っている作品を貸しますよ!
せっかく足を運んでくれた方に、中川さんの作品のよさを知って欲しいですから!!」
と自宅に戻って福助や江戸町火消しを持ってきてくれました。
優しすぎるよMさん。

美術館に話を戻すと、今回の中川岳二展「木々の色々」もこんな優しさで成立しています。
展示した大きな作品は学生の時の2点と
個人宅には大きすぎる「あぎょうとうんぎょう」などの4点、
それと新作の5点以外は全てが個人所有の作品で、
展覧会のために無償にもかかわらず快く貸し出していただいたものです。
もし僕の持っている作品だけで展覧会を開いたら
その11点を並べるだけのとても寂しい展覧会になっていたかもしれません。
初期作品から欠けることなく作品を揃えることができたのは、
所蔵者の皆さんが僕の作品を大切にしてくれいたからこそで、
作家に対する優しさが集まった展覧会だったのだと、心から感謝しています。
ありがとうございました。

優しさから笑顔が生まれる。
美しすぎるぜ、「木々の色々」。
色々な人の色々な笑顔、一生忘れません。

僕の夢を叶えてくれて、ありがとうございました。

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