鉄コン筋クリート

さて前回に続き『鉄コン筋クリート』ですよ。

このお話の舞台は「宝町」というゴチャゴチャとした下町のようなところ。
ここには路上生活者のシロやクロやじっちゃ、
ヤクザの鈴木(ネズミ)や木村、
族のチョコラやバニラなど、
社会からこぼれてしまった人達がたくさん住んでいる。
町はクロのものであり、木村のものであり、チョコラのものであり、
それぞれが町を愛し、町に依存して生きている。
町もまたそこに住む彼らに依存し、彼らを愛している。
ゆっくりと変化していく「宝町」に、蛇という男が現れて町は急激に変わり始める。
「子供の城」という巨大なレジャー施設が建設され、町の空気はいっぺんしてしまう。
シロと町を守るため「オレの町だ!」と、叫んで闘ってきたクロもなす術がないのか・・・。

なぜ今この物語が映画化されることになったのか?
それはきっと、グローバル化やIT化の影で急速に消えていく何かを、
この物語が語るからではないだろうか。
ヤクザの鈴木役で出演している舞踏家の田中泯さんが
パンフレットでこんなことを書いている。
「優れた作品は大抵そうですが、
『鉄コン筋クリート』も“早すぎた傑作”だと思います。
まさに今こそ、注目すべき作品ではないでしょうか。
現在、世界はますます単純化されようとしています。
ですが、人間は元々とても複雑ないきものであり、
その複雑さを単純化しようという時代の流れは、
進化しているようで、実は退行しているのだと思うんです。
この作品は、そんな傾向に一石を投じる内容を持っています。」

一種類の木では森が森でいられなくなるように、
そしてそこに住む生物の多様性が失われていくように、
町もまたグローバル企業の大型店舗が郊外に建ち、複雑さが消えれば、
淀みに生きていた人々の居場所は失われていく。

町を彩った商店街の店は個性的がゆえに、トレンドではないし、ダサイかもしれない。
ほんとは何処かの雑誌に載ってた「個性的」風のトレンドの方がずっとダサイかもしれないけどね。
ぼくは、埼玉の実家のそばにあった「いまじん」という小さな古本屋が好きだった。
店主のおじちゃんは相当に本を愛している人だった。
一冊一冊に丁寧にカバーが掛けられ
どの本も「オレは価値があるぞっ」て顔で、誇らしげにきちんと並んでいた。
今あんな小さな古本屋なんて存在できないのだろうなぁ、
あんなに本を愛している人も。
あの店に行くようになった小学生の頃、
古本屋なんかがチェーン化し大企業になるなんて考えられただろうか。
ゴチャゴチャしていたものが束ねられ、町はどんどん整頓されていく。

いつからなのだろう、何処に旅行に行っても町が同じ顔になってしまったのは。
国道沿いには、ガスド、ユニークロ、ブックオブ、
町の中には、スターバックズ、マグド、にコムサデドモ。
日本だけじゃない、イギリスの空港もデンマークの空港も、
文字を見なけりゃ、みんな同じ。
やっぱりスターバックズでお茶して、チャネルで香水買って、ナエキでシューズ買って、
ソーニのデジカメもありますよって、ここは何処の国ですか?
みんな同じで、個性的、とっても平和なこの暮らし、あたしゃチョンマゲでもゆわこうか。

経営も流通も淀みなく、世界におんなじ個性をお届けします。
無のグローバリズム。
均一化された社会、わかりやすい社会、わかりやすいマーケット。
大量につくり大量に売る為に同じ個性でいて下さいね。

シロは言いました、
「どしてみんな同じに、つくらなかったか?」
「デブッちょ、やせっぽっち、ノッポ、チビ助、こわい人、やさしい人、いろいろ。」
「ちっぱいしてんの。神さま、いっぱい。」

多様性を許容する為の淀みが失われていくのと、引きこもりの増加は無縁じゃない。
・・・3万人の死因もそうか。
効率化の先の、あまりにも悲しい効率的な死。

何かが失われている、それはみんなが分かっていること。
単なる郷愁だよ・・・と、笑えるうちはまだましかもしれない。
長野市での『鉄コン筋クリート』の上映は
最近できた巨大なシネマコンプレックスだというのが、なんとも皮肉だね。
これも笑い飛ばすしかないのかい、お侍さん?
ちょっとちょっと、「ニート」という名の切り捨てはご免だぜ。

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